日本の大学評価が変わる──偏差値から“世界水準”THEへ
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はじめに:偏差値は今も“絶対”だが、変化の兆しが見えてきた
日本における大学選びといえば、これまでは「偏差値」がすべてと言っても過言ではありませんでした。高校生は模試の結果や塾の偏差値表をもとに、「自分が合格できる大学」を選び、進路指導の先生もそのデータに従ってアドバイスをする。こうしたスタイルは、今でも多くの高校で主流となっています。
しかし、社会や教育現場では静かに、そして確実に、偏差値一辺倒の価値観に変化の兆しが見え始めています。たとえば、「その大学で何を学べるのか」「どのような教育環境が整っているのか」「卒業後にどんな進路につながるのか」といった、いわば“大学の中身”への関心が高まってきているのです。
その変化を象徴するのが、世界中の大学を対象とした「THE世界大学ランキング(Times Higher Education)」の存在です。これは偏差値では測れない大学の実力を、教育・研究・国際性といった観点から評価するもので、日本でも注目が集まりつつあります。こうした新しい指標の登場が、これからの進学の常識を大きく変えていく可能性を秘めているのです。
2.THE世界大学ランキングとは何か
「THE世界大学ランキング(Times Higher Education World University Rankings)」は、イギリスの高等教育専門誌『Times Higher Education』が毎年発表している、世界的に権威ある大学ランキングです。QS世界大学ランキングや上海ランキングと並び、国際的な大学評価の指標として多くの学生・教育関係者から注目されています。
このランキングが他と大きく異なるのは、偏差値のような入試難易度ではなく、大学の中身=教育・研究の質や国際性、社会への影響力などを多角的に評価する点にあります。具体的には、以下の5つの観点でスコア化されます。
教育(学習環境):教員一人あたりの学生数、博士課程の充実度など
研究(量・収入・評判):論文数や研究資金、国際的評価
被引用数:論文が世界でどれだけ引用されているか(影響力の指標)
国際性:外国人教員・学生の割合、国際共同研究の比率など
産業界からの収入:企業との連携による技術移転や社会実装の成果
さらに、2017年からは日本独自のランキング「THE日本大学ランキング」も公開されており、こちらは特に「教育リソース」「教育満足度」などに重点を置いた設計がなされています。つまり、偏差値だけでは見えない大学の“本当の実力”を映し出す新しい評価軸として、日本国内でも存在感を増しているのです。
3.日本の大学がTHEを意識し始めた理由
近年、日本の多くの大学が「THEランキング」を明確に意識した広報・改革を進めています。その最たる例が、大学案内や受験情報サイトで「THEランキング国内◯位」といった表現を積極的に用いるようになったことです。これは、単なるブランド力ではなく、教育の質や国際性など“中身”を評価する指標としてTHEが信頼され始めている証拠です。
背景には、少子化による受験生の減少と、大学間の競争激化があります。これまでのように偏差値や知名度だけで学生を集めるのが難しくなり、教育環境や学習成果といった「実力」を可視化する指標が求められるようになりました。
加えて、大学改革の潮流として「学びの質の保証」が問われるようになった今、THEランキングはその取り組みの成果を国際的に示すツールにもなり得ます。つまり、THEを意識すること自体が、大学にとって教育の質を高める大きなインセンティブになっているのです。
このように、THEランキングは単なる順位ではなく、日本の大学が次のステージへ進むための「指針」としても機能し始めています。
4.注目大学:東北大・東大・早慶等の国際系学部の挑戦
THE日本大学ランキング2025で1位を獲得したのは、東京大学でも京都大学でもなく、東北大学です。東北大学は教育リソースの充実、研究力、国際性、地域貢献など、あらゆる面で高い評価を受けており、数年連続で国内首位に君臨しています。
特に注目すべきは、同大学が打ち出した**「2050年までに全入学者を総合型選抜で受け入れる」という革新的な方針**です。すでに全学部で総合型選抜を実施しており、現在でも入学者の約3割が推薦・総合型入試経由です。これは単なる入試制度の多様化ではなく、「多面的な力を持った学生を育てるための環境づくり」そのものであり、THEが重視する「教育の質」とも密接に関係しています。
一方で、東京大学も静かに、しかし確実に変化を始めています。推薦入試枠を拡大し、女子生徒や地方高校出身者など、これまで東大進学が難しかった層に門戸を開きつつあります。さらに近年、授業をすべて英語で行う新たな学部の設置が計画されており、これは世界中の優秀な学生を呼び込むための戦略的な一手とも言えます。こうした動きは、東大が偏差値や国内ブランドだけでなく、世界的な大学間競争を強く意識し始めていることを示しています。
私立大学でも、同様の動きが活発化しています。たとえば、慶應義塾大学のPEARL(Program in English at Rikkyo for Liberal Arts)は、経済学部の授業をすべて英語で行う国際プログラムとして高い評価を受けており、海外大学と競合するレベルの教育内容を提供しています。早稲田大学の国際教養学部(SILS)や国際コミュニケーション学部も、全授業英語化やダブルディグリー制度を導入し、世界で活躍できる人材育成を目指しています。
これらの大学・学部は共通して、THEランキングの評価軸に合致する取り組みを重視しています。つまり、偏差値の高さだけでは語れない“学びの質”や“社会との接続性”を意識し、大学の在り方そのものを国際基準に適合させているのです。
5.総合型・推薦型入試の拡大とTHE基準の親和性
THEランキングが重視するのは、学力試験の得点ではありません。教育の質、多様な学びの機会、国際性、そして社会との接点といった「大学の本質的な力」です。そして、こうした観点は実は、総合型選抜(旧AO)や学校推薦型選抜と非常に相性が良いのです。
たとえば東北大学は、すでに全学部で総合型選抜を実施し、将来的には全入学者をこの方式で受け入れる方針を掲げています。東京大学も推薦入試枠を着実に広げ、多様な背景を持つ学生を積極的に迎え入れようとしています。これらの取り組みは、学力だけでなく探究心・思考力・表現力を持つ人材の育成を大学の使命と捉え直した結果でもあります。
また、PEARL(慶應)やSILS(早稲田)といった国際系学部では、入試そのものが書類・面接型中心で、英語力や課外活動歴が重視されるケースが一般的です。これは、THEランキングが評価する「多様性」「国際性」「教育の独自性」を体現しているとも言えるでしょう。
今後、「THEで評価される大学=総合型・推薦型を主軸に据える大学」となる可能性は高く、偏差値に代わる“新たな評価軸”として、進学の主流が静かに変わり始めています。
さいごに:偏差値と共存しつつ、世界基準で大学を選ぶ時代へ
偏差値は今もなお、進路選びにおける重要な指標のひとつです。しかし、これからの時代に必要なのは、それだけに頼らず、大学の「中身」や「将来性」まで見据えた選択です。THEランキングは、そうした視点を与えてくれる強力なツールです。
学びの質、多様性、国際性を重視し、教育改革に挑む大学が今、静かに主流へと変わろうとしています。偏差値とTHE、両方を見て、自分にとって本当に価値ある大学を見つける──それが、これからの進路選びの新常識となるでしょう。
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